Since: 97/04/01 I'm sorry, but my pages are Japanese only.
Top Page
SF文庫データベース
blog
(2011年12月~)
SFマガジン掲載書評(1995~2001)
最近の仕事
Link
Profile
創元SF文庫の歴史 History of Sogen SF Bunko
第3回 『火星のプリンセス』登場(1965年10月~1973年8月)
1965年秋、創元推理文庫SFマークは、後々までその看板となる作品を刊行する。エドガー・ライス・バローズ『火星のプリンセス』(1965年10月8日刊)である。1912年に雑誌連載、1917年に単行本化されたこの作品は、南北戦争時の南軍大尉ジョン・カーターが火星で大冒険を繰り広げるスペース・オペラであり、アメリカでは国民的な人気を博していたが、日本で本格的に紹介されるのはこれが初めてであった。先行していたハヤカワ・SF・シリーズ(1957年~1974年)は英米の洗練された50年代SF紹介を軸としており、ウエルズ、ヴェルヌなどのクラシックは刊行していたものの、スペース・オペラは全くの手つかず。創元SFはここに狙いを定めた。武部本一郎の流麗な表紙・口絵・挿絵をつけ、当時の流行を踏まえて「007号の痛快さと風太郎忍法帖のおもしろさをSFの世界で再現した波瀾万丈の宇宙活劇(スペース・オペラ)」という華々しい惹句を帯に載せ、さらにSF特集号として奥野健男、野田宏一郎(野田昌宏)、石川喬司らのエッセイを載せた別冊付録「創元推理コーナー」をビニールカバーで文庫にくるんだ豪華な仕様で、本書を刊行したのである。これは見事に当たった。火星シリーズ全11巻(1965年~1968年)は爆発的なヒットとなり、以後創元推理文庫SFは、レンズマン・シリーズ(E・E・スミス/1966年~1977年)、スカイラーク・シリーズ(E・E・スミス/1967年~1968年)、金星シリーズ(バローズ/1967年~1970年)など多くのスペース・オペラを刊行し、シリーズものの創元というイメージが定着することとなる。
もちろん、創元SFはシリーズものばかり出していたわけではない。異星人の原罪問題を追究したブリッシュ『悪魔の星』(1967年)、ハインラインの問題作『異星の客』(1969年)、核戦争後の世界を描いたウォルター・ミラー・ジュニア『黙示録3174年』(1971年)などヒューゴー賞を受賞したシリアスな作品、マグナニイ(ムニャーニ)の表紙と挿絵が強い印象を残すブラッドベリの初期短篇集『10月はたそがれの国』(1965年)、ワイドスクリーンバロックの元祖ヴォークトの代表作『非Aの世界』『非Aの傀儡』(1966年)など、いずれも創元でしか読めない傑作を続々と刊行していたのである。
さらに、この時期の創元SFには、注目すべき点が二つある。一つは、作家でもあり名アンソロジストでもあるジュディス・メリルが腕によりをかけて編集した『年刊SF傑作選』7巻(1967年~1976年)の翻訳刊行だ。ヤングの古典的なタイムトラベル・ラブロマンス「たんぽぽ娘」からウィリアム・バロウズの前衛作まで、幅広くSFを捉え、エッセイやコミックまで収録した多彩なアンソロジーであり、SFの魅力を広げることに貢献し、読者に多くの影響を与えた。
もう一つはJ・G・バラードの紹介である。水没する世界を描いた『沈んだ世界』(1968年)を皮切りに、代表作『結晶世界』、短篇集『時の声』『時間都市』(すべて1969年)、『燃える世界』『狂風世界』『永遠へのパスポート』『時間の墓標』(すべて1970年)『溺れた巨人』(1971年)と、4年間で9冊もの作品が刊行された。従来のSFに飽き足らず、内的空間と現実世界との融合を試みた独自の世界は「バラード・ランド」とも呼ばれ、SF界に所謂「ニュー・ウェーヴ」論争を引き起こした。
つまり、創元SFは、スペース・オペラを続々と刊行する一方で、評価の高い現代SF、さらには最先端の先鋭的なSFも次々と刊行していたのであり、この多様性が創元推理文庫SFの大きな魅力となっていたことは間違いない。
整理番号100番台・300番台の19冊(このうち、『クルンバーの謎』『吸血鬼ドラキュラ』の2冊を除いた17冊には700番台の番号が振り直された)に、700番台~800番台の120冊を足した139冊が、1973年8月までに刊行された創元推理文庫SFマークの冊数である。1963年のブラウン『未来世界から来た男』からちょうど10年が経過し、創元SFはハヤカワ・SF・シリーズと並ぶSFブランドへと成長していた。
書誌的な話をいくつか書いておく。当初火星シリーズは10巻予定だったので、整理番号701~710が予定されていた。711にはスタージョンのノベライゼーション『原子力潜水艦シービュー号』(1965年)が入っていたが、火星シリーズ11巻『火星の巨人ジョーグ』(1968年)が711で刊行されたため、『シービュー号』は744に移行している。また777からはブリッシュ『暗黒大陸の怪異』(1968年)が刊行されたが、翌年新設された帆船マークへ移籍したため、777には新たにヴェルヌ『悪魔の発明』(1970年)が入った。また、火星シリーズは、最初の6巻が小西宏訳だったが、1979年から1980年にかけて、厚木淳訳となって新たに初版が発行されている。
次回は1973年から一気に1991年の創元SF文庫創刊まで行きたいと思います。
Back
Next
Back to History Top Page
ご意見・ご感想などありましたらyu4h-wtnb#asahi-net.or.jp までどうぞ。
お手数ですが「#」を「@」に変えてメールしてください。
Copyright (c) Hideki Watanabe, 1997-, All rights reserved