SF Magazine Book Review
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1999年9月号
『リメイク』コニー・ウィリス
『マイノリティ・リポート』フィリップ・K・ディック
『リメイク』コニー・ウィリス
(1999年6月30日発行/大森望訳/ハヤカワ文庫SF/580円)
コニー・ウィリスの『リメイク』は、デジタル技術が進んだ二〇〇五年のハリウッドを舞台に、本物のダンサーを目指す少女アリスと映画マニアの大学生トムの恋を描いて、九六年度ローカス賞をノヴェラ部門で受賞した、素敵なラヴロマンスである。
俳優の全身が映っているベースショットと著作権の許可さえあれば、デジタル編集で別の俳優のシーンに貼り込むことが可能となったこの時代、もはや生身の俳優が演技をする必要は全くなくなった。製作されるのは、リバー・フェニックス主演の『バック・トゥ・ザ・フューチャー』やマリリン・モンロー主演の『プリティ・ウーマン』など、過去の作品に過去の俳優を貼り込んだリメイクものばかり。そんな中で、フレッド・アステアに憧れ、本物のダンスを映画の中で踊りたいと願う少女アリスに、デジタル編集の仕事をしている大学生トムはどうしようもなく惹かれていく。アリスの夢は、デジタル一辺倒のハリウッドでは不可能なはずだった。ところが、ある日、トムは姿を消したアリスが五四年製作の映画に出演していることに気がつく。どうやって彼女は過去の映画に出演することができたのか……?
大作『ドゥームズデイ・ブック』を仕上げた後で肩の力が抜けたのか、ウィリスが、自分の好きな分野で思いきり軽やかに、楽しく作品を仕上げていったことがよくわかる。登場人物が実に生き生きとしているのだ。映画マニアなら思わずニヤリとするような場面が多くあるが、細かいことはわからなくても十分楽しめることは保証する。日本版には詳細な訳注(労作!)がついていることだし。本書の面白さは、アリスとトムそれぞれの映画に対する愛が、結局は二人を結びつけていくところにある。デジタルな衣裳をまとってはいるが、実に古典的な恋愛物語なのだ。ヴァーチャルが氾濫する中でのリアルな恋の物語を存分に楽しんでいただきたい。
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『マイノリティ・リポート』フィリップ・K・ディック
(1999年6月30日発行/浅倉久志・他訳/ハヤカワ文庫SF/640円)
フィリップ・K・ディックの『マイノリティ・リポート』は、映画化(監督スピルバーグ、主演トム・クルーズ、来年夏公開予定)を契機に日本で独自に編まれた短編集。予知能力者の予言に従って犯罪の前に該当者を逮捕する未来社会で、犯罪予防局長官のアンダートンは自らが殺人を犯すことを予言されてしまう。これは警察内部の陰謀なのか、それとも本当に彼は殺人を犯すのか……。未来予知の不確定性と人間心理の不安定さを巧く重ね合わせた表題作を始め、人類が世界球と呼ばれる携帯型の人工惑星で生命を育てることに熱中する「世界をわが手に」、SF作家が予知能力者だと思われている未来にP・アンダースンがさらわれてきて問題の解決法を依頼される「水蜘蛛計画」など全七篇が本書には収められている。邪悪なものにあやつられて世界の運命を変えてしまった男の物語「安定社会」は、ディックの未発表処女作として貴重であるが、善と悪の対立、機械に対する恐怖、箱庭的な小道具など、後のディックの特色がここに既に現れていることは特筆しておくべきだろう。初訳を三編含んでおり、この機会に購入して損のない好作品集である。
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