前作の結末から三世紀が過ぎた。〈テクノコア〉が人類のもとを去るとともに〈ワールドウェブ〉と連邦は崩壊し、人類はパクスと呼ばれるカトリック教会の統治下にあった。惑星ハイペリオンで狩猟のガイドをしていた青年ロール・エンディミオンは、冤罪によって死刑を執行されるが、石造りの塔の一室で甦る。そこにいたのは、何世紀にもおよぶ延齢処置を受けて生き延びた老詩人、サイリーナスであった。彼はエンディミオンに、まもなく〈時間の墓標〉から出現するブローン・レイミアの娘アイネイアーを救出し、保護してほしいと頼む。かくして、青年エンディミオンの波瀾万丈の冒険が始まった……!
と、ここまでの紹介でほんの八十頁足らず。相変わらず、快調なテンポで物語は進む。待ち受けていたパクスのデ・ソヤ神父大佐の隙を突いてホーキング絨毯に乗ったエンディミオンがアイネイアーを救出。それをすかさず追うデ・ソヤ神父大佐。文字通り、宇宙を股にかけた追跡行が始まるまでを、短い章立てで一気呵成に書き上げたかと思うと、いくつもの惑星を旅する河下りの場面はゆったりと臨場感たっぷりに描き出す。まさしく緩急自在の筆運びで、シモンズは本当に小説が巧いねえ。異星の海の香りや氷の冷たさをここまでリアルに描ける作家は、そうはいないよ。しかも、彼らの冒険が、単なる個人的な冒険でなく、人類の進化に関わる大冒険であるということが徐々にわかってくる辺りのスケールの雄大さには、もうしびれっぱなし。クライマックスの死闘も、迫力満点、しかも泣かせるラストが待っているという無類の面白さである。しかし、まだまだ数多くの謎は残されたままだ。年内には刊行される完結編が、今から待ち遠しくてたまらない。
肉体的に魅力のある者よりも醜い者が死んだ方が任務の遂行に支障をきたさないという極めて強引な理屈によって、惑星探査要員は身体に不具合のある者ばかりが集められている。自らを自虐的に¥チ耗品と呼ぶ惑星探査要員は、義手のアル中、あごのない男など、所謂フリークスの集まりだ。メラクィンへ降りた後は、ラモスのサバイバルを描いた冒険物語の色が濃くなっていくのだが、一人の女性がコンプレックスを克服する過程と冒険とが巧く結びつけられており、人間と建物がガラスで出来ているメラクィン文明の独自さや、短い章を積み重ねた歯切れの良い文体と相まって、ユニークな作品となっている。好悪は別れるかもしれないが、一読をお勧めしておきたい。