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2001年10月号

『マンモス 反逆のシルヴァーヘア』スティーヴン・バクスター

『オンリー・フォワード』マイケル・マーシャル・スミス

『二十世紀SFD一九八〇年代 冬のマーケット』中村融・山岸真編


『マンモス 反逆のシルヴァーヘア』スティーヴン・バクスター

(2001年7月15日発行/中村融訳/早川書房/2400円)

 クラークとの合作に続いて刊行されたスティーヴン・バクスター『マンモス 反逆のシルヴァーヘア』は、これまでハードな本格宇宙SFに取り組んできた作者が、一転して太古に存在したマンモスに焦点を当て、最新の研究成果をもとにその生態を緻密に描き出したユニークな力作である。本書では、好奇心が強く放浪癖がある若いメスのマンモス〈シルヴァーヘア〉を主人公とし、滅びゆくマンモス家族の生き残りを賭けた冒険と熾烈な人類との戦いが生き生きと描かれていく。正直言って、最初は人間と同じように思考し会話をするマンモス達にかなり戸惑ったが、人類とは異質な生き物から世界を垣間見るというのは、優れたSFの特質とも言うべき相対的な視点そのものではないか。そう気づいてからは、人類の伝承・神話を取り入れたバクスターの巧みな語りに誘われて物語に引き込まれ、シルヴァーヘアの冒険に一喜一憂している自分を発見した次第。人類との戦いの場面では、行けシルヴァーヘア、人間どもを踏みつぶせ! などと人間である自分を忘れ、ついついマンモスを応援してしまったほどだ。素直に行動や心理に共感できるのも、睡眠や食事、性行動に至るまでのマンモスの日常生活がリアルに描かれているためだろう。しっかりとSFになっている驚愕の結末まで、とにかく一気に読める面白さ。続篇の刊行も是非期待したいところだ。

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『オンリー・フォワード』マイケル・マーシャル・スミス

(2001年7月19日発行/嶋田洋一訳/ソニー・マガジンズ/2000円)

 米国では昨年刊行され、優れたペーパーバック・オリジナルに与えられるP・K・ディック賞を受賞したマイケル・マーシャル・スミスの処女長編『オンリー・フォワード』(英国では九四年刊)は、嗜好を同じくする人々が住む近隣区から構成される〈都市〉を舞台にした、ハードボイルド・タッチのファンタジイと呼べばいいのか、何とも不思議な味わいの物語である。〈色彩〉近隣区に住む主人公スタークは、行方不明となった男アルクランドの捜索を依頼される。侵入困難な〈安定〉近隣区にいることを突き止めたスタークは、何とかその中に入り込み、アルクランドと出会う。そこで彼が知ったのは〈都市〉の中心である〈センター〉で行われている恐るべき謀略であった……。と、ここまでが全体の半分。この後、謀略のプロットはどこかに置いてきぼりにされ、数年前にスタークが旧友レイフとともに探し当てた夢の世界をめぐる物語が展開されていく。以前スミスの書いた『スペアーズ』の書評で「物語の焦点が絞り切れていない」と評したことがあるが、本書でも同様のことを感じた。前半のハードボイルド・アクションに徹するか、後半の悪夢のような世界を初めから描いていくのか、どちらかに絞った方がまとまってくるはず。うまく両者が融合していないので、中途半端な印象を受けてしまうのだ。ただし、最新作ではこの欠点は解消されていたので、今後書かれる作品には期待できると思う。

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『二十世紀SFD一九八〇年代 冬のマーケット』中村融・山岸真編

(2001年7月20日発行/中村融・山岸真編/河出文庫/950円)

 年代別SF傑作選も五巻目となった。中村融・山岸真編『二十世紀SFD一九八〇年代 冬のマーケット』は、サイバーパンクが吹き荒れた八〇年代の傑作十二篇を集めている。完結にはまだ早いが今回少し総括めいたことを書いてしまうと、このアンソロジーの特色としては、丁寧な解説と合わせて読んでいくうちにSFの歴史が知らず知らずのうちに身についてくることが挙げられる。紙数の都合で詳述は避けるが、社会とSFとの関わりの変遷が見事に浮き彫りになっているのだ。更に、テーマの共通した複数の作品が比較可能であることも特色の一つ。なぜこの作品がここに置かれているのか、編者の意図を推し量りながら読むのもアンソロジーの楽しみの一つであろう。とりわけ今回は『八〇年代SF傑作選(上・下)』小川隆・山岸真編(九二年、ハヤカワ文庫)という先駆が存在するので、比較しながら読むのもまた一興。さて、八〇年代編の出来栄えはどうか。ネットワーク社会やナノテクが初登場し、時代の最先端がSFと一致した稀有な時代であったことを考慮に入れると、生物科学やナノテクなどの最先端科学をいち早く取り入れた作品として、ディ・フィリポ「系統発生」、スティーグラー「やさしき誘惑」の二篇が、現代社会の諸問題を扱った作品として、宗教団体による犯罪を描いたドゾワ「調停者」、カンボジア内乱にインスパイアされ、一人の女性の一代記をマジック・リアリズムの手法で描いたライマン「征たれざる国」の二篇がそれぞれ印象に残ったが、やはりベストは肉体と精神の相克を描いたギブスン「冬のマーケット」に止めを刺す。当時のギブスンの筆が如何に冴えていたかが良くわかるだろう。

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