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2001年8月号

『地を継ぐ者』ブライアン・ステイブルフォード

『二十世紀SFC一九七〇年代 接続された女』


『地を継ぐ者』ブライアン・ステイブルフォード

(2001年5月31日発行/嶋田洋一訳/ハヤカワ文庫SF/840円)

 二十年ほど前〈タルタロスの世界〉〈宇宙飛行士グレンジャー〉などサンリオSF文庫から続々と翻訳が出ていたイギリスSF作家ブライアン・ステイブルフォードの名を記憶している方も多いだろう。その後も作者は精力的な執筆活動を続けており、現在五十冊以上の著作があると言う。長らく翻訳は途絶えていたが、今回久々に新作が刊行された。『地を継ぐ者』は二十二世紀末の長寿社会を舞台にして作者の新境地を開いたと言われるシリーズの第一巻である。

 二十一世紀末、二度の疾病戦争の後、不妊病が蔓延する〈災厄〉時代を迎え、人類は存続の危機にさらされていた。天才科学者コンラッド・ヘリアーが人工子宮を発明し、滅亡こそ免れたものの、かつて百四十億あった人口は七十億に激減。〈災厄〉を乗り越え莫大な富を得たコンラッドの仲間たちは体内テクノロジーを駆使して長寿の肉体を手に入れる。長寿と言っても彼ら第一世代の寿命はせいぜい百五十歳が限度であり、ヘリアーも二十二世紀半ばには亡くなってしまう。そして五十年が過ぎたある日、永遠の生命に値しない人物を処刑するテロリスト集団エリミネーターが「ヘリアーは死んでいない」「発見せよ」とのメッセージを発信した。ヘリアーの仲間だったサイラスが誘拐され、ストリートファイターを引退してVE(仮想環境)デザイナーとして働いていたヘリアーの息子デーモン・ハートも事件に巻き込まれていく。ヘリアーは本当に死んでいないのか、エリミネーターの真意は何か。そして明らかにされる〈災厄〉の真実とは……。

 生物学と社会学で学位を得たという作者の本領は本書に遺憾なく発揮されている。ナノテクとバイオテクノロジーによる不老技術を基にした未来社会が如何に形成され、停滞し危機を迎えるかを作者は丁寧に描き出しており、なかなか説得力がある。若い女性に手を出してみたり、自分の体を傷つけるストリートファイトが流行ったり、まあ人間が不老になってもロクなことはしない。「四十に足らぬほどで死ぬのが目安かるべけれ」と兼好法師も言っている。物語としては、不老第一世代(父親)と第二世代(息子)との対比を中心に進むが、途中から〈災厄〉以前の旧世代と不老第一世代との対立も絡んでくるので、いささかわかりづらく複雑だ。遠未来の地球に生じた〈天国〉と〈地獄〉の二世界のみを対比させた初期リシーズ〈タルタロスの世界〉と比べれば、作者の技量は明らかに進歩していると言えるのだが、それが物語の面白さに必ずしも結びついていないのがつらいところ。議論好きの登場人物が多く、冒険ものの体裁をとっているにしては展開がもたつき、謎解きの鮮やかさに欠ける嫌いがある。そう言えば、かつてステイブルフォードの熱心な紹介者であった米村秀雄も、冒険SFとしての弱さを指摘した鏡明に対して「テーマについて述べる部分になると、熱中してしまって、物語が少しお留守になる」(『プロミスト・ランド』解説)と弁解していた。この欠点はいまだ改善されていないのではないか。ともあれ、未来社会の在り方について社会学的な視点から深く考察した正攻法の本格SFとしての読み応えは十分。腰を据えてじっくりと読んでみてはいかがだろうか。

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『二十世紀SFC一九七〇年代 接続された女』

(2001年5月20日発行/中村融・山岸真編/河出文庫/950円)

 年代別英米SFアンソロジーはこれで四冊目。『二十世紀SFC一九七〇年代 接続された女』は、革新の六〇年代を経て、女流作家が活躍し、挫折に彩られた個人主義的作品が蔓延した七〇年代の作品を選りすぐっている。中ではやはり、とびきりの美女にネット経由で接続された不細工な娘バークの悲劇を描いたティプトリー・ジュニア「接続された女」が圧巻だ。文体、テーマ、どれをとっても全く古びておらず今読んでも十分刺激的である。バークの痛みが文字通り脊髄経由でビンビン伝わってくるぞ。他には、現実に本の世界が侵食していくウルフ「デス博士の島その他の物語」、飛行船が発達し第二次大戦が存在しなかった世界を描くライバー「あの飛行船をつかまえろ」が印象に残った。七〇年代らしさという観点からは、ヴァーリイ、ビショップ、マーティンらLDG(レイバー・デイ・グループ、詳細は解説を参照のこと)の作品か、ル・グイン、ラスら女流作家の作品を挙げるべきなのだろうが、作品の完成度の高さでは、この三篇が抜きん出ている。

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