SF Magazine Book Review



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2001年1月号

『エンダーズ・シャドウ(上・下)』オースン・スコット・カード

『バゴンボの嗅ぎタバコ入れ』カート・ヴォネガット

『セカンド・エンジェル』フィリップ・カー


『エンダーズ・シャドウ(上・下)』オースン・スコット・カード

(田中一江訳/2000年10月31日発行/ハヤカワ文庫SF/上下各720円)

 オースン・スコット・カードの『エンダーズ・シャドウ(上・下)』は〈エンダー〉シリーズの最新作であるが直接の続編ではなく、第一作『エンダーのゲーム』に登場するエンダーの副官ビーンを主人公とした物語である。時間的にも第一作の時点にさかのぼり、エンダーが体験した戦闘の顛末がビーンの視点から再度描かれている。読者としては、なぜカードがこのような形でビーンの物語を綴らねばならなかったのかが気になるところだが、本書の序文によれば、それはビーンが「エンダー自身がおとなの教官たちから受けたのとおなじ待遇をした少年戦士」であるからだということになるらしい。意図せず罪を犯したエンダーの救済は『死者の代弁者』をはじめとする続編で存分に描かれていたわけであるから、同様の境遇に置かれていたビーンの救済を描いてもいいのではないか、いや描かねばならないのだ、という理屈なのだろう。いかにもカードらしい考え方である。

 ストリート・キッドとしてどん底の人生を体験し、バトル・スクールに入って自らの才能を花開かせたビーンのサクセス・ストーリイは、エンダーの体験と重なる点もあり、文句なしに面白い。エンダーに対するボンソーのような宿敵も、アシルという強力な敵としてちゃんと登場している。大きな違いは後半になって明らかになるビーン出生の秘密であるが、実はこれが存在するためにビーンの物語はエンダーの物語と似て非なるものとなっている。ビーンはある意味で、エンダーよりも苛酷な運命を担わされているのだ。本書の結末は束の間の救済に過ぎないとわかっているだけに、より感動的である。物語のストレートさからカード初心者にもお勧めできる、『エンダーのゲーム』に匹敵する作品だ。

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『バゴンボの嗅ぎタバコ入れ』カート・ヴォネガット

(浅倉久志・伊藤典夫訳/2000年10月31日発行/早川書房/2400円)

 カート・ヴォネガットの『バゴンボの嗅ぎタバコ入れ』は、主に《サタデイ・イヴニング・ポスト》《コリアーズ》などの五〇年代大衆雑誌に掲載された初期短編を集めた作品集である。後の作品のシニカルな作風から比べれば随分と素直で暖かみのある作品が多く、ヴォネガットの小説世界の原点を知ることができる。SFと呼べるのは二篇だけで残りは普通小説がほとんどだが、ヴォネガットは五〇年代アメリカの風景を素描して、見事に鮮やかなスケッチに仕立てあげている。念願のマイホームを購入した中流家庭の夫婦、戦傷で陸軍を退役した将校、五千ドルのスーパー・カーを手に入れた青年など、本書に登場するのはまさしくアメリカ黄金時代を彷彿とさせるキャラクターばかり。時代を反映してか、物語は単純かつユーモラスであり、ヒューマニスティックな感動が伝わってくる作品が多い。作者名を伏せて読んだら、おそらくヴォネガットとはわからないだろう。戦争体験を生かした「記念品」や、落ちが利いている「記憶術」もいいが、作中のベスト3を挙げると、昔の妻に対するせつない思いが伝わる表題作、アメリカ文学永遠のテーマとも言える父と子の絆を描いた「自慢の息子」、月の光に誘われて恋をする男女を描いた「恋に向いた夜」といったところになるだろうか。若きヴォネガットの熱い思いが伝わってくる好作品集である。

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『セカンド・エンジェル』フィリップ・カー

(東江一紀訳/2000年9月30日発行/徳間書店/1800円)

 フィリップ・カーの第九作『セカンド・エンジェル』は、新種ウィルスによって人類が一億人以上の死者を出した近未来、何より貴重なものとなった健康な人間の血液をめぐって展開される戦慄の冒険SFである。主人公ダラスは、バイオテクノロジー関連会社の防犯システム設計者であったが、ある事件をきっかけに自らの豊富な知識を駆使して月の血液銀行に保存してある健康な血液を強奪することになる。人員と機材を集めて月に乗り込んだダラスの計画は果たしてうまく行くのか……。ストレートな銀行強盗物語のあちらこちらに博学な謎の語り手による独白がはさみ込まれる構成は『殺人探究』以来の作者が得意とするパターンだが、本書ではこの仕掛けが見事に成功している。科学と哲学に関する豊富な知識を背景にして、壮大な冒険を紡ぎ出してみせた佳作と言えるだろう。

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