ブラッドベリとは、多くの読者にとって、まずは、風の音に脅え戦争ごっこに興じた子供の心を再発見させてくれる作家として記憶されていると思うのだが、その点においてはデビュー以来まったく彼の作家的姿勢に変化はない。ひょっとしてブラッドベリは変節してしまったのではないかと心配されている方も安心して本書を手にとってほしい。さすがにかつてほどの冴えはないにせよ、往年の名短編集に比べて決してひけをとるものではないと思う。
二十年ぶりに故郷に帰って図書館を訪れた男が司書の女性と当時の思い出を語り合う「交歓」はまさに子供時代の再発見を描いて秀逸だし、タイムマシンを発明した男たちが生前不遇であった作家の晩年に向かう「最後の秘蹟」は先達への優れたオマージュとして感動的だ。小鳥の歌声からシンフォニーを聞き取る男の物語「レガートでもう一度」の美しさ、愛らしさも特筆すべきだろう。以上に名を挙げた四篇がマイ・ベストになるけれど、他にも、墓の土から亡霊が甦る「無料の土」、巨大蜘蛛との戦いを描く「フィネガン」などのストレートな怪奇譚から、お得意のサーカスを舞台にした「電気椅子」「瞬きよりも速く」などの普通小説まで、幅広いジャンルの作品が収められているので、とにかくご一読あれ。
時は二三世紀、スコーリア王圏とユーブ協約圏の二大勢力が争う銀河。スコーリアの王位継承者ソズは、中立惑星でユーブ人の一団と出会うが、そのリーダーの男に通常のユーブ人とは異なる雰囲気を感じとる。それもそのはず、その男ジェイブリオルは、ソズと同じ強力なテレパスであるローン系サイオンだったのだ。強い絆で惹かれあう二人だが、実はジェイブリオルは宿敵ユーブの王位継承者でもあった。スコーリアとユーブの対立が深まる中で、二人の運命は……。
脊椎に埋め込まれたコンピュータ・ノード、時空の外にあり思念の束波によって情報を伝える超感空間、量子力学を応用したテレパス理論などの最先端科学を軸とした設定と、家系や階級を重んじる王国という古典的な世界観とが組み合わさって独特の世界を作り上げている。展開も歯切れよく戦闘場面はスピーディだ。ユーブ人が、他人の苦痛を検知して快楽を得るという脳の構造上、エンパスを捕まえては自分の快楽の提供者とする恐ろしい人買い族であるという設定も面白い。ソズ自身もユーブ人に捕まって提供者にさせられたおぞましい過去を持つため、陰影に富む主人公となっている。しかし、肝心の物語が結局はソズのラヴ・ロマンスを中心としており、『ロミオとジュリエット』やハーレクィン・ロマンスの域を脱していない点には今一つ物足りなさを感じた。