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ハヤカワ文庫SFの歴史 History of Hayakawa Bunko SF


五期(九〇年八月~九五年七月)881番~1109番まで



 この時期の本文庫は、九三年二月にクラーク『2001年宇宙の旅[決定版]』で1000番に到達するなど順調に点数を伸ばしていったが、再刊で華やいだ二期や、再刊も新刊も勢いのあった四期と比べると、どうしても地味な印象を受ける。カードやウィリス、ウォマックなど個々に見れば重要な作品はあるのだが、これらが〈サイバーパンク〉のような運動体に発展することはなかった。むしろこの時期は、〈スチームパンク〉が紹介されたり、レズニックやイアン・マクドナルドらSF作家の作品が本文庫よりも先に刊行されたりと、《ハヤカワ文庫FT》の方に勢いがあったように思われる。
 刊行点数順に見ると、五点が三人、カード、ラッカー、モフィットとなる。カードは、『エンダーのゲーム』の続編であり評価が大きく分かれた『死者の代弁者』とその続編『ゼノサイド』などが刊行された。サイバーパンクの担い手の一人ラッカーは『空洞地球』『ホワイト・ライト』など主要作が一気に刊行された。モフィットは、デビュー作『木星強奪』から『星々の教主』までの全作品がこれも一挙に刊行されている。御三家のうちアシモフ、ハインラインはついにランク外。四点は、先述の『2001年』と続編二点などが刊行されたクラークと、サンリオから出ていた短編集が一挙に再刊されたディックの二人のみである。
 他の主要作品は、ヴァーリイ久々の長編『スチール・ビーチ』と短編集『ブルー・シャンペン』、ティプトリーの短編集『故郷から一〇〇〇〇光年』☆、ポスト・フェミニズムSFとして話題を呼んだ表題作を含むウィリスの短編集『わが愛しき娘たちよ』、ウォマック『ヒーザーン』『テラプレーン』、レズニック『アイヴォリー』、ラファティ『どろぼう熊の惑星』、スラディック『遊星よりの昆虫軍X』、ビッスン『世界の果てまで何マイル』などがある。サイバーパンクがらみでは、スターリング『ネットの中の島々』、スワンウィック『大潮の道』、ジーター『ドクター・アダー』が刊行された。サイバーパンク以降の大型新人として、ソウヤーとバクスターが初登場。ソウヤーは、デビュー作『ゴールデン・フリース』と『占星師アフサンの遠見鏡』の二冊、バクスターは、《ジーリー》シリーズに含まれる『天の筏』『時間的無限大』★の二冊が刊行され、いずれも好評を博した。
 アンソロジーは、八〇年代を代表する傑作を集め、編者による詳細な解説を付した、小川隆・山岸真編『八〇年代SF傑作選』が刊行された。
 シリーズものは、白背でビショフ《星界の猟犬》、ファウスト《エンジェルズ・ラック》が刊行され、《新宇宙大作戦》と、アスプリン《銀河おさわがせ》シリーズが始まっている。青背では、アンソニイ《クラスター・サーガ》、ウィリアムズ《銀河怪盗伝》、カード《帰郷を待つ星》《ワーシング年代記》などが刊行された。前二者は白背からの刊行でもおかしくない内容であり、徐々に青背と白背との区別が曖昧になってきたのがこの時期の特色である。《ローダン》は九四年に二百巻に到達。スミス《人類補完機構》は短編集『シェイヨルという名の星』☆が刊行され、高い評価を得た。
(文中の★印は星雲賞受賞作、☆印は「SFが読みたい!」ベストSF第1位を示す)
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